ABWとは? メリットとデメリット、導入ステップを解説
公開日 2023.06.01 更新日 2023.06.07
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ABWはまだそれほど一般的な言葉ではありませんが、ABWは社員が業務内容や気分に合わせて、働く場所を自由に選択できるフレキシブルなワークスタイルです。そもそもどのようなワークスタイルを指すのか、採用するとどのようなメリットがあるのか、気になる方もいるのではないでしょうか。
本記事ではABWの基礎知識やメリット・デメリット、導入のステップをまとめました。ABWが向いている企業の特徴もご紹介します。導入を検討している方は参考にしてください。
<目次>
■ABWとは
ABWとは「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の頭文字を取った言葉です。採用した企業では社員が業務の目的や内容に合わせて、働く場所や時間を自由に選択できます。社員が気分に合わせて「いつでも」「どこでも」働けるのが特徴です。
ABWはもともとオランダで創業した企業「Veldhoen社」が1990年代に始めたワークスタイルとされています。Veldhoen社がABWを導入した目的は、社員の健康的で持続可能な職場の実現、より参加意欲の高い社員の育成、より柔軟で効率性の高い組織づくりなどが挙げられます。
成功事例が知られるようになると、欧米の企業に広まっていき、日本でも新しい働き方として注目されるようになりました。日本で注目されるようになったきっかけは、働き方改革や新型コロナウィルスの影響でテレワークが普及して、ワークスペースを見直す気運が高まったことです。
今では総務省や経済産業省、国土交通省などの中央官庁もABWを採用し始めています。導入の効果がより広く認識されるようになると、今後さらに注目を集める可能性もあるでしょう。
■ABWとフリーアドレスの違い
ABWとよく似たワークスタイルが、フリーアドレスです。フリーアドレスとは自社オフィスの中で決まった席を持たず、社内の好きな場所で働くスタイルを指すのが一般的です。
一方、ABWでは働く場所が自社オフィスの中に限りません。自宅やレンタルオフィスなどのサテライトオフィス、カフェなど、社外の好きな場所でも働けるのがフリーアドレスとの大きな違いです。
また、ABWでは時間も限定されません。フリーアドレスよりもさらに柔軟に働けるのが特徴で、社員がより主体性を持つ働き方といえるでしょう。
■ABWの導入メリット

ABWを導入すると、企業と社員の両方にメリットがあるとされています。導入するとどのようなメリットが期待できるかを見ていきましょう。
●生産性の向上
ABWを導入すると労働生産性の向上が期待できます。労働生産性とは労働者一人あたり、または労働1時間あたりでどれだけ成果を生み出したかを示すものです。導入で労働生産性が向上するのは、業務内容や社員に適した環境を自分で選べるためとされています。
集中しやすい環境は人それぞれ違い、黙々と作業をするのが好きな方もいれば、静かすぎると集中できない方もいるはずです。作業しやすい環境は、業務の内容によっても異なるでしょう。集中力が必要な作業もあればアイデア出しのように刺激のある環境が向いている場合もあります。
ABWでは個室で集中して作業するのも、カフェなどでアイデアを考えるのも自由です。各人に適した作業環境を選べることから、労働生産性が向上しやすいとされています。
●部署・組織を超えたコミュニケーションの活性化
社員が好きな場所で働くことによって、社員同士のコミュニケーションの活性化も期待できます。部署ごとに部屋が異なるオフィスでは他部署とのコミュニケーションが困難な場合もあります。一方、オープンスペースを設けて、社員が好きな場所で働けるようにすると、従来は関わりがなかった他部署の社員との交流も増えるでしょう。
コワーキングスペースやレンタルオフィスを利用した場合は、他社や異業種の人とも関わる機会が増えます。組織を越えたコミュニケーションは新しい刺激となって各社員の視野を広げると同時に、発想の転換にも役立つはずです。
●オフィスのコスト削減
オフィスコストの削減も期待できます。従来のワークスペースでは、社員一人ひとりにデスクや椅子を用意する必要がありましたが、ABWでは個人の専用デスクが不要になるためです。
専用のデスクが不要になると使わないスペースが明確になり、オフィスのスペース利用を効率化できます。使わない無駄なスペースが多い場合は、、別のオフィスに縮小移転すればオフィスの月額賃料も抑えられるでしょう。
●ワークライフバランスの両立
ワークライフバランスの実現にも役立つでしょう。そもそもオランダ・Veldhoen社がABWを採用した理由の一つが、社員のワークライフバランス実現のためでした。
ABWでは自宅や自宅に近い場所で仕事できるため、通勤時間の削減が可能です。結果、介護や育児などの時間も確保しやすくなります。リフレッシュやスキルアップにあてる時間も確保しやすくなり、社員のプライベートも充実するでしょう。
●優秀な人材の獲得
優秀な人材を獲得しやすくなるメリットもあります。ワークライフバランスを実現しやすい環境が整うと、「労働環境が整っていて働きやすい企業だ」というイメージが広まって、優秀な人材が集まりやすくなるためです。特に人手が不足しているとき、優秀な人材は好きな会社を選べる立場となります。
選ぶ際の基準として、働きやすいかどうかは重要な判断材料です。ABWを採用している企業は優秀な人材により選ばれやすくなるでしょう。
●従業員の満足度・自主性が高まる
ABWは社員を信頼して自主性を尊重する働き方です。責任と権限を社員へ移譲すると、組織に対する満足感や、仕事に対する充実感が向上しやすくなります。
働く場所や時間を自分で決めるようになると、仕事に対する積極性も高まりやすくなるはずです。満足度や充実感、積極性が高まると、モチベーションの向上にもつながりやすいでしょう。
■ABWの導入デメリット
ABWの導入がデメリットになるケースもあります。デメリットが生じる場合は導入を見送ったり、対策を立てたりすることも必要です。ここでは導入した際に生じやすいデメリットを紹介します。
●社員の管理が難しくなる
ABWを導入すると、社員の管理が難しくなるケースもあります。なぜなら社員がいる場所を把握しにくくなるためです。特に自宅やサテライトオフィスなど、オフィス外で働く社員に関して、どのような仕事をどれだけしているかを正確に把握できなくなるケースもあります。
そうなると勤怠管理や人事評価もこれまでより難しくなるかもしれません。社員の勤怠管理や人事評価などの労務管理が難しくなると、マネジメントも難しくなります。始める前には、細かな設定ができる勤怠管理ツールや新しい人事評価システムの採用など、労務管理体制を見直すことも必要になるでしょう。
●セキュリティリスク
ABWでは社外で情報を扱う機会が増えることから、情報漏洩のリスクも高くなるのが一般的です。導入するのであれば、情報を社外で扱う際のルールを事前に設けておくことが推奨されます。
具体的なセキュリティ対策としては、業務で使用するパソコンやスマートフォンにセキュリティソフトをインストールしたり、インターネット接続の際に使用する回線を限定したりするなどのルールの導入が必要です。
また、データのやり取りにUSBメモリやSDカードなどの外部媒体の使用を禁止して、会社が指定するクラウド上でデータを扱うなどの対策を取ると、データの紛失や盗難リスクを軽減できます。
パソコンやスマートフォンなどのツールにセキュリティ対策を施すだけでなく、社員のセキュリティ教育も大切です。情報が漏洩したときの影響や対応なども社内研修で周知しておくとよいでしょう。
●コミュニケーションの低下
オフィス以外の場所で働くようになると、他の社員と顔を合わせる機会が減ります。顔を合わせる機会が減ると、社員同士のコミュニケーションも減少するでしょう。
テレワークがメインの場合、チャットツールなどを使ったコミュニケーションばかりになって、誰とも会話しないまま1日が終わることもあるでしょう。そうなると孤独や疎外感を覚える社員が現れるかもしれません。コミュニケーション不足でチームの連携がうまくいかなくなる可能性もあります。
導入するのであれば、意図的にコミュニケーションの機会を作ることが大切です。毎日1回はオンラインミーティングに参加してもらう、週に一度は出社の機会を設けるなどのルールも決めておきましょう。
また、顔を合わせる機会が減ると、社員の健康状態に気付きにくくなるデメリットもあります。アンケートで社員の心身の状況を把握できるシステムなどの導入も検討してみましょう。
●人や備品の把握が難しい
ABWでは、人がどこにいるか把握しにくいデメリットがあるだけでなく、備品も把握しにくくなるケースがあります。工具や文房具などの備品も使用する人と一緒に移動するためです。
使いたい備品がどこにあるか分からないと、必要になったときに不便に感じてしまいます。誰がどこでどの備品を使っているか、すぐに把握できるルール作りやシステムの導入も必要となるでしょう。
●社員にABWの働き方が浸透しない
ABWは日本企業にとって新しい働き方です。従来の働き方で長く勤めてきた社員や年配の社員には、理解してもらうまでに時間が必要なケースもあります。いきなり切り替えるのではなく、十分な周知をしてから実施しましょう。
ルールや目的が社員に浸透していないと、結局、従来と同じ場所で業務に取り組んでいたり、同じ部署のメンバーで固まっていたりするケースも出てくるはずです。特に導入当初は、従来の働き方を変えられない社員もいるかもしれません。
社員の働き方が変わらない場合、制度が形骸化してしまい、期待したメリットを得られない可能性もあります。一人ひとりの社員にメリットを理解してもらい、必要に応じて適切にフォローしていきましょう。
■ABWがおすすめの企業・職種
ABWは全ての職種に適したワークスタイルとは限りません。向いている職種と向いていない職種があります。
導入がおすすめなのは、定型業務が少なくて創造性が求められる職種でしょう。具体的には企画、営業、マーケティング、デザインなどの業種です。
制度変更や意識改革に対して柔軟な社風の企業にも、ABWは馴染みやすいはずです。すでにテレワークが定着していて、全社員がモバイルツールを活用できている企業も導入しやすいでしょう。
一方で、導入を慎重に検討した方がよい職種もあります。例えば、社外秘の機密事項を扱う部門や集中力が必要となる研究職、専門的な機材の使用が必要な製造職や開発職などですこれらの職種は、社内で業務を行った方が効率的な場合もあります。
■ABWのレイアウト例

固定席スタイルからABWに変える場合、オフィスのレイアウトも変更するのが一般的です。ここではABWに適したレイアウトの例をご紹介します。それぞれの特徴を知って業態や目的に合ったレイアウトを採用してみてください。
●オープンスペース
オープンスペースはその名のとおりオープンな空間で、誰でも利用できるスペースです。大きなテーブルに椅子を並べたカフェや図書館の閲覧テーブルを連想すると分かりやすいかもしれません。
いつもオフィス内で働いている人はもちろん、少人数での打ち合わせに利用するなどと、誰でも自由に活用できるのがオープンスペースです。
●集中ブース
集中ブースは、オープンスペースでは集中できない業務をする際に利用するスペースです。完全な個室ではなく、スペースの一画をパーテーションや専用のツールで仕切ってパーソナルスペースを設けるのが一般的です。
集中ブースでは周囲の視線が気にならず雑音も聞こえにくいため、一人で集中して業務ができます。気が散るとミスをしやすい業務がある場合は、集中ブースを設けるとよいでしょう。
●オンライン会議ブース
オンライン会議ブースは、ZoomやSkypeなどを使ってオンライン会議をする際に利用するブースです。オープンスペースでは雑音が気になる、話し声が周囲に迷惑をかけるなどの場合は、音漏れ防止機能のあるオンライン会議ブースを設置しておくと安心です。特に機密事項を話すオンライン会議などでは、情報漏洩のリスクを減らすことができます。
●1on1ブース
1on1ブースは、1on1ミーティング専用のスペースです。1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行う面談のことです。部下の成長をサポートする目的で導入する企業が増えています。1on1専用のブースは、1対1で話す内容が漏れないよう、オープンスペースとは離れた場所や防音対策が施された空間に設置するとよいでしょう。
●ミーティングスペース
ミーティングスペースは、ある程度の人数が集まってオープンスタイルでミーティングするための空間です。オープンスペースに集まってミーティングしても構いませんが、会議が多い業種では、ホワイトボードやプロジェクターを投影するスクリーンなどを用意したミーティング専用のスペースがあると便利です。
●オフィスラウンジ
オフィスラウンジとは、ゆったりとした雰囲気の中で、少人数での打ち合わせや集中して作業ができる空間のことです。オフィスラウンジにはリラックスできる椅子やソファなどを設置すると同時に、快適に仕事ができる機能性も必要です。
●リフレッシュスペース
リフレッシュスペースは、従業員が心身をリフレッシュするスペースです。仕事の合間に息抜きをしてオンとオフを切り替え、緊張を和らげるための場所として利用します。
リフレッシュスペースを設ける際は、ワーキングスペースとの違いをはっきりと打ち出すことが大切です。カフェスペースや雑誌・書籍を並べた図書スペースなどを設けて、心理的にリラックスできる空間としましょう。
ソファや照明を落ち着きのある暖色系にして、ワークスペースと差別化するのも効果的です。中には屋上にテラスを設けてリフレッシュスペースとして活用しているケースもあります。屋上にリフレッシュスペースを設けると開放感があり、効果的な気分転換が可能になるでしょう。
■ABWの導入ステップ
ABWを導入する際には、さまざまな準備をする必要があります。初めて導入する際は、以下のステップを実践してみてください。
●ABW導入の目的を設定
導入するには、まず「現状の課題を洗い出し、解決するためにABWを導入する」という目的を決めておくのが重要です。導入する目的を決めておけば、導入後の効果も測定しやすくなります。
例えば「組織が縦割りになっているため、部署間のコミュニケーションを促したい」「受け身の社員が多いため、自律的な働き方を促進したい」「離職率を下げるため、社員の働き方を改善したい」などの目的を定めましょう。
「流行っているから」「他でやっているから」などの漠然とした動機で始めてもうまくいかないことが多いはずです。現状の課題を明確にした上で、解決の方法としてABWが有効な場合に導入を検討するとよいでしょう。
●従業員の働きやすさ実現に向けた現状調査
導入の目的を決めたら、次は現状の把握です。社員の意見を聞きながら、現状のオフィスで不便に感じていることや、働き方の満足度などをアンケート調査してみましょう。現状のオフィスにどのような不満があり、どのようなニーズがあるのか、社員の声を集約してデータ化すると、現状の課題と導入によって改善できる点が見えてきます。
●目的に合わせたレイアウトの検討
次にレイアウトを検討します。レイアウトは目的や業態に合ったスタイルを採用するとよいでしょう。例えば、社員同士のコミュニケーションを促したいのであればオープンスペースを広く取る、オンライン会議が多いのであればオンライン会議ブースを多めに設置する、社員の心身のケアを重視したいのであればリフレッシュスペースを充実させるなどです。
またレイアウトは社員の動線や、コンセントの配置など機能性も考慮して行う必要があります。迷うようであればオフィス家具の専門家やインテリアコーディネーターなどに相談してみるとよいでしょう。
●セキュアなセキュリティ対策を施した環境構築・整備
ABWでは自宅やカフェ、サテライトオフィスなどで仕事する社員も増えます。社外から社内のインターネットへ安全にアクセスするには、セキュリティ対策が施された環境が必須です。
パソコンを社外に持ち出せば紛失・盗難のリスクや、インターネット接続に関するリスクが増えます。ウイルス感染や不正侵入など、悪意のある第三者に狙われることもあるかもしれません。
個人情報や社内の機密情報などを扱う業務を社外で行う場合は、各社員のノートパソコンやタブレットにセキュリティソフトをインストールしておくなどの対策を行うと同時に、取り扱い方を明文化したルールを設定して社員に周知しておくことが大切でしょう。
●制度設計
導入の際は、従来の社内制度やルールを見直すことも大切です。例えば、ABWでは社員の動向を把握しにくくなるため、社員の評価基準も従来とは変わってきます。多様な働き方を認める中で、どのように公平な人事評価を実現するのかなども検討して、社内制度を再設計するのがおすすめです。
■まとめ
ABWでは、オフィス内だけでなく、自宅やカフェ、サテライトオフィスなども働く場所となります。導入の際にはオフィス内の整備だけでなく、社員がオフィス外でも快適に働けるよう環境を整備するとよいでしょう。
オフィス外で働く場所を用意する場合には、野村不動産グループが運営するサービスオフィス「H¹O」の活用もご検討ください。「H¹O」は個室だけでなく共用スペースや貸し会議室などを備えたサービスオフィスです。
有人受付による来客対応やラウンジ・リフレッシュスペース等の共用部が充実しています。ABWの導入で社外にレンタルオフィスを置くことを考えているのであれば、ぜひ「H¹O」の利用も検討してみてください。