社員のストレス緩和や生産性の向上といった、多くの企業が抱える問題を解決する有効な手だての一つとして注目されているのが、バイオフィリアを取り入れたオフィス作りです。

バイオフィリア(Biophilia)とは「人間は本能的に自然とのつながりを求める」という考え方のことで、オフィス環境に取り入れると従業員のモチベーション・パフォーマンスの向上につながると期待されています。

バイオフィリアをベースにした「バイオフィリックデザイン」で作られたオフィスを導入するべき理由や方法、具体的なメリットなどをご紹介します。オフィス環境の改善を検討されている企業の担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。


<目次>

■バイオフィリックデザインとは?

バイオフィリックデザインとは、バイオフィリアの考え方を取り入れた「自然を感じるデザイン」のことです。

そもそもバイフィリアとは「バイオ(生き物・自然)」と「フィリア(愛好・趣味)」を組み合わせた造語です。アメリカの社会生物学者「エドワード.O.ウィルソン」が提唱した仮説で「人間は本能的に自然とのつながりを求める」「自然を感じる環境で健康や幸せを得られる」とされています。

この概念のもと、植物・自然光・水・香り・音などを用いて、自然環境の要素を建築に反映させたのがバイオフィリックデザインです。具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。
● 観葉植物を置く・吊るす
● デスクやカウンターに植物を設置する
● オフィスの床に芝生を敷く
● オフィス内に木を植える
● 滝のような水景設備を設ける
● 環境音を再生する など

アメリカやヨーロッパでは、既に多くの企業が創意工夫を凝らしてオフィスに自然を取り入れているようです。日本国内でもバイオフィリックデザインを取り入れたオフィスが徐々に増えてきています。

※参考:Human Spaces.「世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果」.
tthp://interfaceinc.scene7.com/is/content/InterfaceInc/Interface/AsiaPac/WebsiteContentAssets/Documents/Brochures/Japan/wc_humanspacesreport-jp.pdf

■バイオフィリックデザインを導入するべき理由

バイオフィリックデザインを導入するべき大きな理由として、さまざまな面から、社員のコンディションによい影響を与える効果が期待できることが挙げられます。

ランカスター大学のケイリー・クーパー博士が、2015年に世界16カ国(イギリス・フランス・ドイツ・インドなど)の7,600名を対象にした調査によると、自然を感じられる環境で働く人は、そうでない人と比べて幸福度が15%・生産性が6%・創造性が15%高いという結果が得られました。(※1)

また千葉大学が2011年10月に行った学術調査では、卓上の生花を見ると、心身をリラックスさせる副交感神経の活動が29%アップし、反対にストレス神経である交感神経の活動は25%ダウンするというデータが発表されています。(※2)豊橋技術科学大学が2011年2〜3月に行った学術調査でも、植物ありのオフィスでは生理的ストレス(疲労・眠気など)が軽減されると確認されています。(※3)

実際のところオフィスで働く多くの人は、多かれ少なかれストレスや緊張を感じていると考えられます。バイオフィリックデザインをオフィスに取り入れることで、従業員の余分な緊張や不要なストレスを軽減させ、よいコンディションを保たせられるため、働きやすいオフィス環境を整えたい企業は、積極的に導入するのがよいでしょう。

※1 参考:Human Spaces. 「世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果」.
http://interfaceinc.scene7.com/is/content/InterfaceInc/Interface/AsiaPac/WebsiteContentAssets/Documents/Brochures/Japan/wc_humanspacesreport-jp.pdf


※2 参考:千葉大学環境健康フィールド科学センター. 「花きに対する正しい知識の検証・普及事業」.
https://www.mizuho-rt.co.jp/case/research/pdf/flower2014_02.pdf


※3 参考:豊橋技術科学大学. 「葉植物のグリーン ア メニティ効果に関する研究」.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2012.1/0/2012.1_961/_pdf/-char/ja

●都心部のオフィスでバイオフィリックデザインが重要な理由

バイオフィリックデザインは、特に都心部のオフィスで重要とされる傾向にあります。

都心部のオフィスはビルに囲まれ、アスファルトに覆われた場所に建っていることが多いため、そこで働く社員は勤務中はもちろん通勤中や休憩時間などでも、自然と触れ合う機会が少なくなりがちです。前述のランカスター大学のケイリー・クーパー博士が2015年に世界16カ国で行った調査でも、回答者の19%がオフィスに自然の要素がないと答え、47%がオフィスに自然光が入らないと答えています。(※)つまり、都心で働くオフィスワーカーほど、意識的に自然との触れ合いを増やすことが大切といえます。

しかしながら開発の進んだ現代社会では、自宅やその周辺であっても、自然を感じる機会は少ないでしょう。

そこでオフィスをバイオフィリックデザインにすることで、毎日のように自然と触れ合える環境を造り出すことが重要となります。

※参考:Human Spaces. 「世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果」.
http://interfaceinc.scene7.com/is/content/InterfaceInc/Interface/AsiaPac/WebsiteContentAssets/Documents/Brochures/Japan/wc_humanspacesreport-jp.pdf

■バイオフィリックデザインがもたらすビジネス上のメリット

バイオフィリックデザインがもたらすビジネス上のメリットとして、まず、社員のモチベーション・パフォーマンスのアップが期待できます。ストレスを抱えていると「やる気が出ないけど仕事しなくては」「定時まではどうにか働こう」と後ろ向きな考えになってしまい、労働意欲の減退から十全なパフォーマンスを発揮できなくなるようなケースも考えられます。

バイオフィリックデザインをオフィスに採用すれば、心理的なストレスを軽減させられるため、モチベーションを保ったまま仕事に取り組みやすくなるでしょう。また生理的ストレス(疲労・眠気など)を軽減させる効果もあるため、心理的・生理的なストレスを排除して社員のパフォーマンスを引き出すことにもつながるはずです。

社員にとって働くことで活力を得られるような、充実した職場環境を生み出せるでしょう。結果として業務の効率が上がり、企業の業績が向上する効果も見込めます。

次に挙げられるメリットは、従業員エンゲージメントのアップです。従業員エンゲージメントとは、仕事や会社、組織に対して愛着を抱き貢献したいという意欲のことです。バイオフィリアをオフィスに取り入れることで、社員の幸福度アップやストレス軽減、コミュニケーションの活性化が図られることで、従業員エンゲージメントが高まるでしょう。

会社・組織への愛着が高まることで、苦労して採用した人材の離職を防げるため、定着率がアップする効果が見込めます。また社員の幸福度が高まることで、自然と生産性の向上や業績の向上、企業のイメージアップにもつながっていく好循環が生まれるはずです。

最後に、新たなアイデアの創出を期待できるのもメリットといえます。

「自然を感じられる空間では創造性が高まる」という研究結果のとおり個人の創造性が高まり、新しいアイデアが生み出されやすくなるでしょう。

加えて社員同士のコミュニケーションが活性化されることで、新たなアイデアが生み出されやすくなるのもポイントです。環境省が2019年1月~2月に行ったアンケート調査によると、オフィスが緑化されることで「緑をきっかけにコミュニケーションが増えた」「社員同士の緩衝材になる」といった意見が報告されています。(※3)

一人のアイデアには限界がありますが、社員同士のコミュニケーションが活性化され、部署を跨いだ交流が活発になれば、今までにないアイデアが生まれるかもしれません。

※1 参考:千葉大学環境健康フィールド科学センター. 「花きに対する正しい知識の検証・普及事業」.
https://www.mizuho-rt.co.jp/case/research/pdf/flower2014_02.pdf


※2 参考:ロバートソン・クーパー社. 「世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果」.
http://interfaceinc.scene7.com/is/content/InterfaceInc/Interface/AsiaPac/WebsiteContentAssets/Documents/Brochures/Japan/wc_humanspacesreport-jp.pdf


※3 環境省. 「オフィス緑化に関する優良事例調査報告書」.
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/private_participation/health/greenoffice_report.pdf

■バイオフィリックデザイン導入のデメリット・注意点

ビジネス上の有意義なメリットをもたらす一方で、バイオフィリックデザインを導入することによるデメリットや注意点も存在します。両面を理解した上で導入を検討できるように、デメリット・注意点を2つご紹介します。

●1.コストがかかる

バイオフィリックデザインは、導入や維持にコストがかかるのがデメリットといえます。

既存のオフィスにバイオフィリックデザインを導入したり、新オフィスにバイオフィリックデザインを取り入れたりする場合、植物の購入費用はもちろんですが、さまざまなコストが発生します。バイオフィリックデザインを本格的に取り入れるとなれば、大幅なレイアウト変更やリフォームなども必要になるでしょう。

例えばエントランスの壁面を緑化したり、滝のように水が流れる水景設備を導入したりする場合は、基本的に大規模な工事が必要です。他にも、川のせせらぎや鳥の声など自然環境を再現する音響設備の導入や、自然光を取り入れやすくするレイアウト変更など、取り組めることは多岐にわたります。

また導入後も植物の管理や維持に費用がかかるため、ランニングコストも含めて予算設定を行っておくとよいでしょう。

●2.植物の管理などメンテナンスが必要

バイオフィリックデザインは植物の管理や維持など、定期的なメンテナンスが必要な点もデメリットといえます。青々とした元気な植物を保つには、水やりや剪定、葉に付いたホコリの掃除、害虫駆除など、日々のメンテナンスが必要です。もし枯葉が目立ったり、元気のない植物ばかりになってしまえば、管理の行き届いていないオフィスに見えてしまい、社内外からのイメージダウンにつながってしまうでしょう。

とはいえ全てを社員が手入れするのは、大きな負担になる可能性があります。業務に追われて丁寧なメンテナンスが行えなかったり、手が回らずメンテナンス不足になったりして、結果的に枯らしてしまうことが懸念されます。

植物の管理・維持に必要なメンテナンスは、果たして自社の社員だけで行える規模なのか、導入前の段階で考慮しておきましょう。

なお、オフィスが広かったり植物の量が多かったりと、社員による日々のメンテナンスが難しい場合は、外部の専門業者に委託する方法があります。また植物を購入するのではなく、レンタルして業者に管理してもらう方法もあります。どのような方法であれば、美しいバイオフィリックデザインを維持できるかも踏まえて、導入を検討しましょう。

■バイオフィリックデザインを導入する際のポイント

ここで、バイオフィリックデザインを導入する際に押さえておきたい4つのポイントをご紹介します。実際に導入する際の参考にしてみてください。

●1.植物を取り入れたインテリアの設計

バイオフィリックデザインを導入する際は、オフィスへどのように植物を取り入れるのか、インテリア設計を入念に行うことが大切といえます。バイオフィリックデザインでは、一般的に視界に映る植物の割合が約10%~15%になるのが最適とされているため、やみくもに植物を設置してしまうと、十分な効果を得られない可能性があります。

植物が多すぎると、かえってストレスや圧迫感の原因になるので、適度な量に抑えて配置することをおすすめします。どのデスクからも適度に緑が見えるよう、レイアウトを考えましょう。

なお、植物を取り入れる方法としては、植木鉢・プランターを置く・壁に植え込む・天井から吊るす・デスクやカウンターに設置する・パーティションに掛けるなどが挙げられます。

また、こうしたアイテムを配置する際は、社員の動線に影響しないよう意識しましょう。例えば植物のせいで通路を迂回しないといけなかったり、吊るした植物が頭に当たったりするようでは、快適なオフィスとは言い難いです。勤務中や避難時など、いつでもスムーズに動ける配置にすることが大切です。

・本物とフェイクの植物では、効果や効能は違うのか?

オフィスに植物を取り入れる際は、生きた本物の植物を育てる場合と、作り物のフェイクグリーンを採用する場合の2パターンがあります。

最近のフェイクグリーンは精巧にできており、本物と見分けるのが難しいものも多いため、リラックス効果の面では本物も偽物も大きな差異はないと考えられます。なかにはVRで360度に広がる緑の世界を見せるだけでも、副交感神経は活発になりリラックス効果を得られるという説もあります。メンテナンスの手軽さからフェイクグリーンが選ばれることもあるでしょう。

ただし、本物と思っていた植物が偽物だと判明すると、裏切られた気持ちになってしまい、ストレスにつながる可能性がある点には注意が必要です。

また空気の浄化作用や調湿作用など、本物の植物でしか得られない効果もあります。

さらには、精巧なフェイクはその分価格も高価になりがちなため、本物の植物の方が費用対効果が高くなるケースもあるでしょう。

●自然光の導入

植物の配置だけでなく、自然光を取り込むのも重要なポイントといえます。

バイオフィリックデザインでは単に植物を増やすだけでなく、自然に近い環境を作り上げることが大切とされており、自然光も重要な要素の一つとして捉えられています。先述したランカスター大学のケイリー・クーパー博士が2015年に世界16カ国で行った調査では、多くのオフィスワーカーは自然光が不足していると感じており、自然光や緑のない職場では、疾病による欠勤率が高いそうです。(※)加えて同調査では、従業員の幸福度・生産性・創造性の3つ全てで、自然光は重要な要因だったと指摘されています。

自然光をしっかりと取り込むには、大きな窓を設けたり自然光が入りやすいようレイアウトしたりといった工夫をするのがよいでしょう。また、同調査では窓から景色を望めることもストレス緩和に効果的と報告されているため、デスクから窓の外が見られるようにレイアウトするのもおすすめです。

※参考:Human Spaces. 「世界中の職場におけるバイオフィリックデザインの効果」. http://interfaceinc.scene7.com/is/content/InterfaceInc/Interface/AsiaPac/WebsiteContentAssets/Documents/Brochures/Japan/wc_humanspacesreport-jp.pdf

●空気の質の改善

植物は空気中の汚染物質を吸収する働きがあるため、空気の質の改善も視野に入れる場合は、有効な植物の種類も踏まえて導入しましょう。

空気中にはさまざまな「揮発性有機化合物(VOC)」が含まれており、閉め切ったオフィスは建材やインテリア、人体などから発生したVOCが充満しやすい環境といえます。植物にはこうした化合物を吸収・分解する能力があり、空気を奇麗に保ってくれる働きが期待できますが、中でも空気清浄機能の高い植物は「エコプラント」と呼ばれ、一酸化炭素やアセトン、アンモニアなどの人体に悪影響のある物質を吸収・分解してくれます。具体的には、サンスベリアやポトス、アンスリウムなどの植物が代表的です。

植物の空気清浄機能に期待する場合は、エコプラントを積極的に採用するなど、植物の種類にもこだわりましょう。

●音の取り入れ方

川のせせらぎや鳥の鳴き声など、森や山に行くと聞こえてくるような音を流すことも、バイオフィリックデザインの一部といえます。環境音を流すことで、聴覚からも自然を感じられるでしょう。また電話やエアコンの音などオフィス内の刺激音を和らげ、緊張感を緩和する効果も期待できます。

ただし、トイレに設置されている擬音装置のような、いかにも人工的に作られた環境音では、十分な効果が期待できないと考えられます。バイオフィリックデザインの効果を十分に得るには、単に環境音を流すのではなく、自然な音として空間に馴染むよう音響設備や音の流し方を工夫し、自然に聞こえてくる音として受け入れられるようにするのがおすすめです。

■バイオフィリックデザインの導入方法

バイオフィリックデザインの代表的な導入方法には、自社オフィスへ導入する場合とレンタルオフィスを利用する場合の2つが挙げられます。それぞれ詳しくご紹介します。

●自社オフィスへの導入を検討する場合:BPOを活用

自社オフィスへバイオフィリックデザインの導入を検討している場合は、BPOの活用がおすすめです。BPOとは、企業の業務の一部を外部の専門業者に委託することを指します。

BPOの利点は従業員が業務に集中できる点や、プロに任せることでハイクオリティな成果が期待できる点にあるといえるでしょう。外部の専門業者に委託すれば、バイオフィリックデザインの導入計画立案から空間設計、植物の適切な配置、導入後のメンテナンスまで、あらゆることを専門のプロに任せることが可能となるはずです。

●まずは気軽に試したい場合:レンタルオフィスを利用

まずは気軽にバイオフィリックデザインのオフィスを試したい場合は、レンタルオフィスの利用がおすすめです。

「いきなり工事や大規模なレイアウト変更を行うのは不安」「まずは試してみて社員の反応や効果を見たい」と思われる担当者の方も多いかもしれませんが、レンタルオフィスであれば、バイオフィリックデザインのオフィスを一定期間実際に体験してから、本格的な導入を検討できるでしょう。例えば小規模なサテライトオフィスを短期間契約してみる、実際のオフィスを見学してみるなど、本格的に拠点を移さなくてもバイオフィリックデザインのオフィスを体験可能です。

また複数のレンタルオフィスの中から、自社のイメージに合うものや社員にとって働きやすい環境のものを選択できるのもメリットといえます。

バイオフィリックデザインのオフィスを気軽に試してみたい場合は、ぜひレンタルオフィスの利用を検討してみてください。

■まとめ

「人間は本能的に自然とのつながりを求める」というバイオフィリアの考え方を取り入れたオフィスには、さまざまなメリットがあります。特に都心部のオフィスで働く社員は、植物や自然光、水、動物など、自然と触れ合う機会が極端に少なくなっているため、オフィスにバイオフィリックデザインを取り入れることで大きな効果が表れると期待できます。

とはいえ大規模なリフォームや大胆なレイアウト変更は、コストがかかり失敗するリスクもあることから、不安に思われる担当者の方も多いでしょう。

「バイオフィリックデザインのオフィスに興味はあるが、まずは試してみたい」という場合は、野村不動産グループの「H¹O」をご検討ください。バイオフィリックデザインを取り入れたレンタルオフィスを複数展開しており、入居後の満足度は90%以上となっています。

オフィス見学予約も承っているので、お気軽にお問い合わせください。

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