野村不動産の新しいサービスオフィスブランド「H¹O」では、いま「時間・空間・人間」をテーマに、多彩なゲストとともに、未来の働き方を考えるオンラインサロンを開催しています。

5月25日にキックオフとして開催された“第0回“に引き続き、6月29日に行なわれた第1回のゲストは、コクヨのワークスタイル研究所の山下正太郎所長。

今回のタイトルは「コロナ時代のオフィス戦略を考える」です。


<目次>

山下氏は、世界のオフィスを紹介するメディア「WORKSIGHT」の編集長でもあり、研究活動の中で世界30カ国、50都市、1000ヶ所以上のワークプレイスに足を運んで、海外の働き方を紹介。最近は「次の働き方/働く場」に関する海外ニュースを集めたニュースレター「MeThreee(ミースリー)」も発行しています。


ファシリテーターは、Tokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石崇氏と、イベントプラットホーム・Peatix共同創業者の藤田祐司氏。

今回のオンラインサロンには、前回の開催で反響をいただいたこともあり、なんと約450名の方に参加頂きました。


セッションの冒頭では、野村不動産が2020年6月に立ち上げた「HUMAN FIRST研究所」によるオフィスワーカー調査の結果を紹介。

今回のコロナウイルスによる社会の変化は、働き方やオフィスの在り方が変わっていく分水嶺と言えるかもしれません。

「Beforeコロナ」のワークスタイルは、「フレキシビリティ」と「イノベーション」

まず山下氏は、「Beforeコロナ」のワークスタイルがどうだったのかについて解説します。キーワードは「フレキシビリティ」と「イノベーション」。

コロナ以前の働き方の一つとして、生産年齢人口減少を背景に、フレキシブルな働き方が求められていました。そのソリューションのひとつが「ABW(Activity Based Working)」。90年代にオランダから発祥したコンセプトで、在宅勤務なども含め、働く時間と場所を自分で自由に選択できるというスタイルです。企業にとってはオフィススペースの削減、ワーカーにとってはワークライフバランスを保ちやすいというメリットがあります。

ABWが進んでいる国として山下氏が例に挙げたのはオーストラリア。国の4大銀行のひとつNational Australia Bankのあるオフィスでは、約6000人が自席を持たずに働きつつ、在宅勤務やカフェなど、時間と場所に縛られない働き方を実践しています。ABWは短期的には生産性が上がりやすいですが、長期的にはロイヤリティやエンゲージメントが下がりやすい。オフィスはそれを防ぐために工夫がされています。例えば、チームが占有して使えるチームハブと呼ばれるスペースが与えられ、週1回は必ず集まるなど心理的なつながりをケアする工夫をしているということです。

「ただしABWは、定められたルールに従うことを優先し、”空気を読む“、”忖度する“ということが少ないローコンテクストカルチャーの欧米には向いていますが、ルールよりも目に見えない空気感のようなものを察知する(してしまう)ハイコンテクトカルチャーの日本には向かない傾向があります」と、山下さんは指摘します。


そしてもうひとつが、シリコンバレー型のイノベーションモデル。ABWとは真逆で、「3密」で働く環境をイノベーションの源泉にしようというアプローチであり、最も先進的な国がアメリカ。Facebook社のオフィスからもイメージできる通り、空間に人が密集することで、偶発的な会話を含めて有効なコミュニケーションが生まれる、という考え方です。一方で文化的には、アメリカのようなローコンテクストカルチャーの国は集まって働くことに実は向いていません。各自がプライバシーを重視したり、自分の都合を優先してオフィスからすぐに帰ったりするからです。そのためテックカンパニーのオフィスでは食事をタダで提供したり、ジムを設けたりあの手この手でワーカーをオフィスに留めようとしているとのこと。


「実は、この働き方は、ハイコンテクストの文化が強い国の方が向いています。朝から晩まで食事もでないオフィスに居続けられる日本字には実はぴったり。つまり日本はイノベーションに必要な集まることには長けているのにも関わらす、なぜか有効なコミュニケーションができないというのが、大きな課題なのです」

「With コロナ」のワークスタイル カギを握るのはミレニアル世代の動向

次に「Withコロナ」で、ワークスタイルはどのような変化していくのか、山下氏のプレゼンテーションが続きます。

「海外でもっとも話題になったオフィスが、ソーシャルディスタンス戦略を徹底した、Cushman&Wakefieldの“6Feet Office”です。オフィス内のデスクの距離感や配置はもちろん、“剥がせるデスクマット“を採用して使用者が変わるごとに交換したり、オフィス内に貼られた移動ルートに従って移動したりするなど、徹底した対策が注目されました。他にも、オフィスの各所に接触回避を目的としたタッチレステクノロジーの導入も進んでいます。」

(参考:https://www.youtube.com/watch?v=_ipDDIQcp2s

一方日本では、在宅勤務及びリモートワークを希望する従業員が多いものの、6割近くの経営者が「まだ今後の方針を決めかねている」ということで、いずれ自分の会社の働き方はコロナ前のように元に戻ると考えているワーカーも多いです。(コクヨ調査より)

さらに山下氏はこう続けます。「重要なのは、コロナ以降の最重要テーマとなった企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の即戦力となる、ミレニアル世代以降の気持ちにどれだけ寄り添えるかです。デジタルネイティブであるミレニアル世代以降の人材を獲得すべく、企業が率先して働き方を変えていく。そのことが社会を変える大きな可能性を秘めています」

「Afterコロナ」に起こる、ワークプレイスポートフォリオの変化とは?

今後、「Afterコロナ」と呼ばれる時代に突入した時、働き方はどうなるのか。山下氏はこう予測します。

「コロナによって、シリコンバレーが支持した3密型のイノベーションモデルが崩壊しつつあり、すべての企業がABW型の働き方を推進していくと考えられます。すでにTwitterやFacebookなど、かつてはオフィス至上主義を貫いていた有力企業も本格的にリモートに移行しつつあり、世界中の企業もそれに追随していく可能性が高いでしょう」

そこで課題となるのが、従業員の「共有知」をどうつくっていくか。今までそれを育むためのプラットフォームはオフィスでしたが、リモートワークが浸透するとどうなるのか。「解決策のひとつは、オフィスにいないことが通常になるので、デジタル上のプラットフォームをハブにすること。すでにオランダのDeloitteは、アプリを使ってAppセントリックワーク(アプリ中心主義のワークスタイル)と呼ばれる働き方をいち早く実践しています。アプリが『共有知』を生み出す場になるわけです。『ABW2.0』時代の企業の中心はオフィスからデジタルプラットフォームに移行するでしょう」

ABW型の働き方が主流になると、ワークスタイルは欧米型に変化していく、と山下氏は指摘します。たとえば企業の社員は、さまざまな職種を経験するメンバーシップ型から、専門性を持つジョブ型へ。仕事の管理も企業任せでなく、自分でコントロールするセルフマネジメント型へ。さらにデジタルリテラシーも必須となり、文化的にもハイコンテクストからローコンテストに移行して、いわゆる自立型の人材が求められる社会になっていくと言えるでしょう。

同時にワークプレイスポートフォリオにも変化が生じると言います。「これまではハイコンテクスト・リアル偏重でオフィスでの仕事が多かったのですが、これからはローコンテクスト化・デジタルミックスが進み、そのバランスが変わっていくでしょう」、と山下氏は予想します。自宅やサテライトオフィスで時間やスケジュールに縛られず働くボリュームが増え、WEB会議システムなどのデジタルツールを活用して仕事を進めることも当然増えていくということ。そうなると、オフィスで働く時間も必然的に減っていきます。

山下氏は、さらにこう続けます。「この変化の中で、これまでオフィスの中で生まれていた、仕事の発想を生み出す偶然の出会いや雑談を、デジタルでどう補完していくかが新たな課題となってきます。最近話題のClubhouseのようなデジタルの仮想コミュニティが機能すれば、偶発的な会話からアイデアやイノベーションのきっかけが生まれると思います。いわば3rd Placeの次の“4th Place” と呼べるデジタル空間を構築できるかがポイントであり、歴史的には失敗つづきの領域ですが、世界中の企業がツール開発に集中しているので、いよいよ近い将来ブレイクスルーが起きるかもしれません」

「Afterコロナ」で、オフィスはプレミアム化・サービス化が進展

この流れの中でも、オフィスがなくなるわけではありません。オフィスに求められる・残る機能として山下氏が挙げるのは、Booster(高い生産性)、Authenticity(精神的報酬)、Speciality(特殊な用途)、Interaction(N対Nのインタラクション)、Confidentiality(機密機能)、という5つの機能の頭文字をとった“BASIC”。もはや、ただの作業スペースは必要とされず、規模は小さくてもデジタルで代替できない価値を生み出す場が求められ、その結果オフィスのプレミアム化が進むと予測します。そしてそれらの機能は必ずしも自前で調達する必要はなく、オフィスのサービス化も並行して進展するとも指摘します。

元々、H¹Oをはじめ、サービスオフィスというジャンルのプロダクトは存在していますが、サービスオフィスには、日常的に通う、いわば自分たちのアジトである「センターオフィス型」と、通勤や仕事の隙間時間に立ち寄る「サテライト型」があります。山下氏は「今後は企業がより柔軟なオフィス・ポートフォリオを求めるため、ハイエンドなサービスを提供する前者の需要が高まるはず」と語ります。

ここで、参加者からの質問タイム。1つ目に投げかけられたのは、「郊外型オフィスとABWの可能性について」。山下氏は「これからは、都心にコンパクトな拠点を持ち、サテライトも併用する“ハブ&スポーク”が主流になると思います。また一部では、郊外や地方に本拠地を移して、都心では出来なかった自分たちの世界観を表現する“テーマパーク型”の拠点整備も登場する」と予想します。

次の質問は、「会社のアイデンティティをどう作るのか?」。リモートワークが今後も増えていった場合、従業員の帰属意識や愛着をどう醸成していくのかは、特に経営層にとっては重要な課題です。山下氏は「直接的な対面でのコミュニケーションが減る分、トップがPodcastで社員にメッセージを発信するなど、デジタルを介した価値観共有は一つの方法だと思います。大事なのは、従業員一人ひとりが仕事の成果や企業の社会的価値を実感できること。これができていれば、会社への帰属意識を保つことができ、本当の意味で仕事をしている実感を持つことができるでしょう」と話しました。

最後に参加者へ向けて、山下氏は次のようなメッセージを残してくれました。

「これまで日本のオフィスは、ウェルビーイング、ABWなど海外で先に流行っているコンセプトを文脈も深く考えずに導入しつづけてきました。しかし社会の前提が大きく崩れている中で、今後はゼロベースで本当に自分たちに適した働く場の在り方が問われています。他者事例をすぐに参考にするのではなく、自分たちの働き方を、もう一度真剣に見つめなおして欲しいと思います」

今後はオフィスに求められる価値や役割が変化し、ワークスタイルが一変した社会が到来する可能性が示唆されています。山下氏の話にもあったように、プレミアム化、サービス化がオフィスに求められる中、クオリティ・スモールオフィスの「H¹O」の果たす役割はますます大きくなっていくと、野村不動産は考えています。こうしたニーズの変容に目を向けながら、H¹Oが大切にしている[Value 4 Human]という価値指標=「自分らしさ」、「心身の健康」、「心地よさ」、「豊かな感性」に基づいた、個人が最高のパフォーマンスを発揮できる環境づくりをさらに追求していきます。

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