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2020.10.01 H¹O連続オンラインサロンを開催 第2回「コロナ時代で求められる“人間中心発想”とは?」

「時間・空間・人間」をテーマに、毎回多彩なゲストをお迎えして、未来の働き方を考える野村不動産の「H¹O連続オンラインサロン」。好評だった第1回目に引き続き、7月29日に第2回目が開催されました。タイトルは「コロナ時代で求められる“人間中心発想”とは?」。今回のゲストは、IDEO TOKYOのエグゼクティブ・ディレクターの野々村健一さんです。

ファシリテーターには第0回、第1回に引き続き、Tokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石崇氏と、イベントプラットホーム・Peatix共同創業者の藤田祐司氏。

今回は参加者から事前に多くの質問が寄せられました。一番の関心ごとは、リモートワークやソーシャルディスタンスが求められる状況で、どうしたらイノベーションを生み出せるか? ということ。野々村さんはそれを受けて、コロナ禍において人間中心デザイン(HUMAN-CENTERED DESIGN)がどう変わっていくのか、についてプレゼンをしてくれました。

人とビジネスとテクノロジーが交差する部分がイノベーション

まずは、IDEO TOKYOという会社についての簡単な紹介からセッションがスタート。同社は約40年前に、シリコンバレーで生まれた会社で、当時からデザイン思考や人間中心デザインを掲げ、工業デザインからインターフェイス、新しい投票システムや組織変革まで、様々な領域で新しいデザインを創出しています。現在、世界5カ国9カ所に約750名のメンバーがいて、東京には45名ほど。社員(デザイナー)は、全員違う畑から来た人ばかりで、自動車や建築の業界、雑誌の編集者や医師など、国籍を含めて多様なメンバーが集まっているそうです。

野々村さんがまず触れたのが、IDEOが考えるデザイン思考と人間中心(HUMAN-CENTERD)について。「われわれはデザインと人間を切り離して考えてはいませんが、どちらにウエイトがあるかというと人間中心の方です。日本で人間中心と言うと、消費者目線から考えることが多いのですが、私たちは、つくり手である働く人々がどういう世界をめざしていくか、そのために必要なビジネスは何なのか、どのようなテクノロジーがないと実現できないのか、を起点として考えます」と説明します。人とビジネスとテクノロジーが交差する部分がイノベーションになり、その構図は今もこれからも変わらないのではないか、と考えているそうです。

人間中心といっても、人間のことだけを考えればいいというセルフィッシュな捉え方はしていないと野々村さんは言います。ただし、人間が変わらないと世の中は変わりません。

「企業の観点でいうと、人とコト、人とモノ、人と人、という様々な捉え方のなかで、共感性をどれだけつくっていけるかが、大事になってくるだろうと考えています」

加速する人間の行動変容から、新しいアイデアのヒントを見つける

「欧米では今回のコロナ禍をThe Great Pause(大いなる一時停止)と言っています。我々にとって何が大切なのかを考えるいい機会になっていると、私自身も捉えています」と野々村さん。ではIDEOでは、働き方はコロナ前後でどう変わったのでしょうか。

IDEOでは、主催するワークショップなどでMURALやmiroといった、クラウド上で共有できるいわゆるオンラインホワイトボードを活用するなど、もともと一定のリモート文化があったため、今回のコロナ禍でも比較的スムーズに移行でき、逆に効率が上がった部分もあるといいます。またソーシャルリスニングやデジタルダイアリーを利用するなど、リモートでも “没入感をつくりだす”工夫を行なっていると言います。

「お客様とのやり取りの中でも、試作品を送って同時に試しながらオンライン上で対話をするなど、フィジカルとデジタルを上手に組み合わせています。また、ブレストやアイデアを出し合う場面では、皆の意見を集めるアプリを作ってそこで共有するなど、コミュニケーションの仕方もインタラクティブになるように工夫しています」

人間中心のデザインを作った象徴的な事例として、大学病院とのコラボレーションがあります。課題は、密を避けるコロナ対策によって、ストレスが増大してしまう環境を変えたい、というもの。とくにICU(集中治療室)は窓もなく閉鎖的で、時間も季節感もわかりません。そこでIDEOでは、宇宙飛行士の山崎直子さんによるエキスパートインタビューをリモートで実施。その後ICUの壁にプロジェクションでWeather Windowというアプリを走らせ、バーチャルな窓をつくるという解決策を提供しました。

「私たちは、コロナのせいで人の行動が根本的に変わるとは考えていません。どちらかというと、今までもあった行動変容がより加速するのではないか、と捉えています。その変化をピックアップしながら、新しいアイデアのヒントを見つけようとしているのです」

*東京慈恵会医科大学附属病院

コロナ禍の4ヶ月で感じたのは、“どうしたらもっと良くなれるのか?”

野々村さんは、コロナによって世界はむしろ広くなったと感じていると言います。たとえばIDEOは文化をとても大切にする会社ですが、元々実施していた社員の入社日のお祝いをリモートで継続、さらに今年5月には、その文化を昇華するため、グローバル規模で各自が自由にプログラムを組む「メインフレンジー」というイベントを開催。多彩なコンテンツを通じて世界のデザイナーと繋がり、新たな気づきが生まれるなど、結果的にサービスの開発に繋がるような要素も出て来たそうです。

難しいのは、コロナ後にどうやって仕事に戻るのかということだと、野々村さんは指摘します。平等な環境のオフィスと違って、家(Home)の環境はバラバラで不平等、そこを行ったり来たりしながら仕事をするためには、環境の多様性をケアする必要があると言います。

「子供の保育に困っていた共働きの両親のために、あるデザイナーがエッグペインティングのコンテンツを提供したら、親が仕事に集中できるようになったという事例があります。仕事の中に私生活が入って交差する今の社会環境の中では、共感力を持ってデザインすることが大切になるのです。

また野々村さんは、この数ヶ月、社会にとって重要なことが様々に起こっていて、そこをしっかり見ていくことが大切だと訴えます。たとえば、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンに関する関心の高まり、変化など。日本に関してはジェンダーに関する議論も大事で、それらに関して本気で議論をして取り組んでいかないと、5〜10年先の競争力に差が出てくるだろうと予測しています。

「この4ヶ月間に発生したエネルギーは、稚拙な表現ですが、“どうしたらもっと良くなれるか?”。同時に、ビジネスの美意識も変わっていくタイミングに来ていると思います。そこで大切になるのが、やはり人間中心の観点に立ち戻ること。ニューノーマルという言い方もされますが、新しい可能性を開く“New Possibilities”を大事にしたいと考えています」

コロナ禍の中でも、不確実性を楽しむバリューを持つ人が増えている

ここでオンラインサロンは後半のディスカッションに入ります。

まずファシリテーターの藤田さんから、「物理的に集まらないでイノベーションを起こすには、何がポイントになるか?」という質問がありました。野々村さんは、物理的に集まれなくなることで情報量が絞られることはあっても、デジタルツールを駆使するなど様々な工夫することで、イノベーションは十分に生み出せると言います。

「考えなければならないのは、人によってコミュニケーションのスタイルが違うこと。空気を読みながら動く人、時間を気にせず流れで仕事をする人は、リモートワークになると大変かもしれません。一方で、コロナの状況下でパフォーマンスを上げる人もいます。今後は、チームのメンバーをより俯瞰して見ることが大切になります」とアドバイスします。

次は野村不動産の橋本から。「さまざまな場所で分散して働く企業の社員が、パフォーマンスを上げるためには何が必要になるか?」という質問です。

野々村さんは、コロナ禍ではできることが限られるが、たとえばライブカメラなどを導入して、外から参加する人にも”現場感“を感じてもらったり、物理的に集まることが必要ならば、ローテーションで出社するなど、様々な工夫でパフォーマンスは上げることができると答えます。

ファシリテーターの横石さんからは、IDEOのイノベーションを起こすカルチャーとはどのようなものであるか、そこから何を学べばよいのか?という質問がありました。

野々村さんは、それについて、IDEOのベンチャーキャピタル事業を紹介します。投資先には、アバターを使ってバーチャルのカラオケを提供する企業、オンライン問診を展開する企業などがあり、ポテンシャルを感じて投資先に選んでいたそれらの企業は、コロナ禍で需要が急増し業績も急成長していると言います。「こうあるべき」と思ったコトに注力することこそが、イノベーションに繋がっていくと野々村さん。

「いま企業の皆さんは、このコロナ禍の中でも、どうやって跳ね返ってやろうかと、今後のために“弾込め”をしている状況。だからコロナが開けたときには、すごく面白いことになると思っています。もともとIDEOには“不確実性を包み込む、楽しむ”というバリューがあるのですが、そういう価値を持つ人たちの数が増えてきているのではないか、と感じています」

最後に野々村さんは、参加者へのメッセージとしてこう語ります。「どうしたら(社会が)Betterになれるかを考えながら、余計なバイアスを取り除き、人というものをより広く考え、共感できる立て付けをつくるために、(有益な)議論ができればいいと考えています」

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