野村不動産の新しいサービスオフィスブランド「H¹O」では、「時間・空間・人間」をテーマに、多彩なゲストと共に未来の働き方を考えるオンラインサロンを開催し、毎回好評を博しています。2020年8月28日に行われた第3回のゲストは、株式会社パーク・コーポレーションが手がける空間デザインブランド「parkERs(パーカーズ)」のブランドマネージャー梅澤伸也さん。今回のタイトルは「“植物のある職場”が強いチームをつくる」です。


<目次>

parkERsは、国内外に数多くの店舗を展開するフラワーショップ「青山フラワーマーケット」から、7年前にスピンオフした空間デザインブランド。空間設計のプロと植物のプロが、それぞれのデザインと専門性を持ち寄り、感性と科学を掛け合わせながら空間づくりを行い、人々の日常に豊かさと公園のようなやすらぎや心地よさを提供しています。

ちなみにparkERsは、「H¹O西新宿(2020年3月開業)」と「H¹O渋谷神南(10月16日開業予定)」のエントランスやラウンジエリアなどの設計・デザイン監修を手掛けています。

オンラインサロンのファシリテーターは、今回もTokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石崇氏と、イベントプラットホーム・Peatix共同創業者の藤田祐司氏です。

セッションの冒頭には、野村不動産から「WORKING HAPPY(働く人の幸せ)」という「H¹O」のキーワードでもある考え方を紹介。米国イリノイ大学のエド・ディーナー博士らの研究によると、幸福度の高い社員は一般的な社員に比べて生産性が1・3倍、創造性が3倍高い、という結果が出ているそうです。

H¹O」では、幸せに働ける場所の要素として、「自分らしさ」「心地よさ」「心身の健康」「豊かな感性」という4つの価値を定め、インテリアはもちろん、植物の緑や光にもこだわり、そこに集まる人が幸せに働くことができる環境を提供しているという話から、セッションの本編がスタートしました。

人類は先天的に生物や生命への本能的欲求がある

梅澤さんは最初に、コロナ禍でロックダウンした米国において、4人に1人がガーデニンググッズや観葉植物を購入したというデータを紹介。日本でも緊急事態宣言下で同じような傾向が見られ、「人は本当に切羽詰まったときに、自然回帰をする欲求が高まるのです」と、話を始めました。

ではなぜ人は自然を欲するのか? 梅澤さんはアメリカの社会生物学者が広めた「Biophilia(バイオフィリア)」という言葉を紹介します。これは、進化の過程で人類は先天的に生物や生命への本能的欲求がある、という心理的傾向のこと。また、人はなぜ自然で癒されるのか? 梅澤さんはこう説明します。

「人は森や海にいくと、ボーっとします。でもじつは、脳は逆に活性化しているという論文があります。都会では人間が考えた構造物に囲まれて生活しているが、自然の中では予測不能な形をしたものに囲まれるので、脳がすごく回転するというのです。そのために、一種のトランス状態になり、それがボーっとするという感覚になる。つまり脳が活性化する場所が変わるために、意識や気持ちの切り替えができ、リラックスできるという説があるのです」

そもそも梅澤さんがIT関連の仕事から、現在の仕事に転職したのも、バイオフィリアを実感したのがきっかけだったといいます。アフリカのケニアに旅行に行ったときのこと、セスナ機で飛行場に降り立ったとき、土の匂いと太陽の熱と風の香りに囲まれ、DNAがざわざわする感覚を覚えたといいます。「この感覚を全人類が持てば、皆が性善説に導かれ、世界は平和になるのではないか、と思ったのです。それが僕の原体験で、現在の仕事の信念になっています」

植物には「人間らしさを調律してくれる」効能がある

植物には、科学的に見るとどのような効能があるのでしょうか? 梅澤さんによると、植物には、“人間らしさを調律する機能”があるといいます。高いストレス状態を落ち着かせ、逆に落ち込んだ気分を高揚させてくれる。たとえば、うつ状態の人に自分らしさを取り戻してもらい、社会復帰させる「園芸療法」なども、その機能を利用したもの。これは、千葉大学環境健康フィールド科学センター 自然セラピー研究室の医学博士であり、森林浴研究の専門家である宮崎良文先生(グランドフェロー)が、英国のネイチャー誌に発表した論文に記されているそうです。

また、デンマークのAarhus Universityの調査によると、「自然に囲まれて育った子のほうが、55%精神疾患にかかりにくい」、という結果が出ているといいます。

梅澤さんによれば、自然(植物)の効果は大きく3つあります。「リラックス(癒しになる)」「クリエイティビティ(創造性が高まる)」「ポピュラリティ(好感を抱かせる)」の3つです。ポピュラリティとは、植物の話をすれば、誰も傷つけることがないということ。たとえば花についての話は、人種や国籍を超えて、コミュニケーション障壁を低くしてくれるのです。

また人間は、テーゼとアンチテーゼの間を振り子のように行ったり来たりしながら、真ん中のゾーンであるジンテーゼ(人間らしさ)に落ち着いていくと言います。たとえば最先端技術を日々研究するシリコンバレーのIT企業が、自然との繋がりを感じられるバイオフィリックデザインを採用するなど。テクノロジーが優位になり過ぎると、逆に人間らしさを求めるようになるのです。

「人類は、ホモサピエンスになる前から、言語化できない感情を花に託す生き物なのだと思います。よく言われるのは、武器に対抗できるのは、ペンと花であるということ。私たちparkERsは、花と緑が(世の中の課題を解決する)ソリューションとして使われる日が来ると信じ、日々仕事をしているのです」と梅澤さんは語ります。

本物とフェイクの植物では、効果や効能は違うのか?

オンラインサロンの後半は、質問タイムです。最初は、ファシリテーターでもある藤田氏からの、本物の植物とフェイクの植物では、効果が違うのだろうか?という質問がありました。

梅澤さんによれば、最近の造花(フェイク)は非常に精巧で、本物と見分けがつかないものが多いと言います。本物の植物には、空気の浄化作用や湿度を保つという物理的な効果がありますが、人をリラックスさせる効果がある植物の「緑色」という部分では、本物もフェイクもあまり違いはないそうです。たとえばVRメガネで360°緑の映像世界を見せると、副交感神経の働きが活発になり、大体マッサージを60分受けたのと同じくらいの効果があると言われています。

「ただし、本物だと思っていた植物がフェイクだとわかると、裏切られたという感情が湧いて、逆にストレス値が高まってしまいます。仕事の現場では、メンテナンスを考えてフェイクのご要望もいただきますが、最近のフェイクは精巧なだけに値段も高いため、費用対効果を考えると、むしろ本物の植物を入れることをお勧めするケースも多いのです」

次は、植物の種類によって、効果や効能は違うのか?という質問です。梅澤さんによれば、植物の形状によって、確かに効果は違うそうです。植物の種類で緊張と緩和を生み出せるのです。

最近注目されているバイオフィリックデザインは、一般に空間の中にいる人が自然とのつながりを感じられる設計のことを言いますが、その定義はあいまいであり、「私たちが考えるバイオフィリックデザインとは、生産性を高めるため、人間と周りの自然を“同調”させるデザインだと考えています」と梅澤さんは言います。

parkERsがデザインを手がけたものに、スターバックス(半角アキ)コーヒー(半角アキ)表参道ヒルズ店があります。水と緑を存分に感じる空間になっていますが、とくに店内中央には外の天気と連動した「波紋」を映し出す照明装置を設置し、外が雨ならば落ちてくる水滴の量が多くなって天気の変化を感じられるなど、季節や自然の変化を体感できるようになっています。

植物を愛でることのできるチームは強い組織になる

そして、今回のオンラインサロンのタイトルに関連する質問も出されました。果たして“植物のある職場”が強いチームをつくる、というのは真実なのでしょうか?

梅澤さんの答えは、シンプルです。「植物があるとチーム組織が強くなる、というよりは、植物を愛でることのできるチームが強い組織なのだと思います」

以前、ある企業でエントランスに緑の小鉢をたくさん置いて、出社したら各自のデスクに持って行っていき一定期間育ててみるという取り組みを行なったそうです。その結果、ある営業部署で興味深い結果が得られたそうです。成績のいい社員ほど植物を枯らすことなく、成績の悪い社員ほど植物を直ぐに枯らせてしまったというのです。

「成績のいい営業部員は、小さな異変に気づき、すぐにその原因を調べてリカバリーできるのですが、成績の悪い営業部員は、手遅れになるまで異変に気づかない。その違いが、顕著に現れてしまったんです」

植物の育て方は思っているよりも難しく、それは恋愛と似ていると梅澤さんは言います。愛情を込めたこまめな世話が必要なのです。とくに量販店で売っているような観葉植物は、一般的には根の張り方が弱く、“水やり3年”と言われるほど、水やりにも経験が必要となるそうです。

いま企業の多くが、SDGsやESGといったキーワードが象徴するような、環境や社会への配慮の取り組みの一環で、屋内外の緑化デザインに注力しています。植物を職場に置くことで、生産性や創造性は本当に上がるのでしょうか?

梅澤さんは、「植物をデザインに取り入れた職場は、西洋医学に対する東洋医学のようなもので、即効性はないけれど、じわじわと効いてくると思います」と確信を込めて答えます。

コロナ禍の中で、いまオフィス離れも進んでいます。しかし梅澤さんは、人間は結束感を持って進化する生き物なので、リアルなオフィスがなくなることはないと予測しています。

「ただしこれからの時代、“みんな”というのは均一のことではなく、個体差を尊重することになると思います。言い方を変えれば、多様性を認めるということ。これからのオフィスづくりは、その概念が大切になるかもしれません」

最後に梅澤さんは、次のようなメッセージを残してくれました。「明日から花一輪、自宅でもオフィスのデスクでもいいので、飾ってみてください。毎日が少し幸せになるかもしれません」

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