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2020.11.02 H¹O連続オンラインサロンを開催 第4回「サードプレイス研究者と共に考える、これからのオフィスとは?」

野村不動産の新しいサービスオフィスブランド「H¹O」では、「時間・空間・人間」をテーマに、多彩なゲストと共に未来の働き方を考えるオンラインサロンを開催し、毎回好評を博しています。2020年9月8日に行われた第4回のゲストは、サードプレイス研究者である梅本龍夫さん。タイトルは「サードプレイス研究者と共に考える、これからのオフィスとは?」です。今回は、総勢200名以上の方にご参加いただきました。

梅本さんの本業は、コンサルティング会社である有限会社アイグラムの代表取締役で、物語ナビゲーターという肩書を持っています。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の特任教授、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科の客員教授としてもご活躍されています。サードプレイスという言葉は、日本ではスターバックスの広がりとともに普及してきた背景がありますが、梅本さんはそのスターバックスの日本での立ち上げに携わった経歴があり、現在は社会学の観点からサードプレイスの研究を行なっています。

オンラインサロンのファシリテーターは、今回もTokyo Work Design Weekオーガナイザーの横石崇氏と、イベントプラットホーム・Peatix共同創業者の藤田祐司氏です。

サードプレイスとは、コミュニティの人々が出会う「交流の装置」

梅本さんによれば、サードプレイスとは、レイ・オルデンバーグというアメリカの社会学者が80年代に提唱した考え方で、『GREAT GOOD PLACE』、翻訳版は『サードプレイス』(副題は「とびきり居心地よい場所」)というタイトルの著書が出版されています。原書と翻訳では、表紙の写真が違うことを梅本さんは指摘します。

「原書の表紙はおしゃれな本屋さんやカフェで、翻訳の表紙は新橋かどこかの居酒屋で酒を飲みながらワイワイガヤガヤしている風景。日本的な文脈でサードプレイスはどうあるべきかを考える上で、この写真の違いはとても面白いと思います」

梅本さんは、オルデンバーグが提唱するサードプレイスを、次の3つの特徴にまとめています。⑴コミュニティの人々が出会う「交流の装置」、⑵コミュニティ文化を醸成する「多目的ホール」、⑶違いを理解し、認め、助け合う「共助の触媒」、の3つです。

「交流装置」というのは、地元のコミュニティで人々が出会う場所。かつて欧米では、ポストオフィス(郵便局)やジェネラルストア(雑貨食料品店)がその役割を果たしていたと言います。

「多目的ホール」というのは、今でいうコーヒーハウス。意外にもコーヒーが最初に広がったのは紅茶の国であるイギリスのロンドンで、コーヒーハウスは公的世論形成の場として民主主義を醸成する一方、知的生産力(メディア・科学・文化)の発展に貢献してきました。

「共助の触媒」というのは“誰もが繋がり、集い、寄り添える場”を意味します。梅本さんはここで例として、「カフェ潮の路」という、一般社団法人つくろい東京ファンドが運営する生活困窮者のためのシェルター事業を紹介。住居として家があることがまず一番だが、次に社会的に孤立しないための仕事をする場所、そして憩いの場・居場所が必要だとして運営するこのカフェのあり方が、その一例だと説明します。

ファーストプレイス(家)は、家族の役割を果たすフォーマルな場所

梅本さんは次に、サードプレイスを分類するマトリクスを表示して、視聴者に対して質問を出しました。縦軸にインフォール、フォーマル、横軸に私(プライベート)、公(パブリック)を置いた“4つの箱”①〜④”を示して、どれが私たちのファーストプレイス(家)にあたるのか、オンラインサロンの参加者に問いかけたのです。投票機能を使って投票してもらったところ、「①インフォーマル&プライベート」に入ると答えた人が最も多く、73%に及びました。

「じつはオルデンバーグはファーストプレイスを“②フォーマル&プライベート”に入れています。つまり家はプライベートではあるけれど、フォーマルな場所というわけです。なぜフォーマルなのかというと、そこでは家族としての役割を遂行しなければならないから。男性ならば、夫として父親としての役割を果たさなければならない。オルデンバーグはサードプレイスを“③インフォーマル&パブリック”の箱に入れています。歩いていける立地にあって、家族の役割から開放された自分でいられる場所こそが、交流型サードプレイスなのです」

スターバックスの登場で、マイプレイス型サードプレイスが誕生

このマトリクスに従うと、セカンドプレイス(仕事場)は“④フォーマル&パブリック”に入ります。フォーマルかつ公共の場であり、きちんと役割を遂行するジョブ型の職場です。確かにかつての欧米社会はそうだったのですが、スターバックスの登場で変化が生まれました。職場のフォーマルさから逃れて、人々は時々スターバックスで仕事をするようになったのです。

「いわば第2のセカンドプレイスで、マトリクスでは③の箱に入ります。マイプレイス型サードプレイス(スターバックス流)と呼びますが、従来のサードプレイスとの決定的な違いは、スターバックスでは交流がなく、コミュニティをつくらないこと。アメリカでも、店員以外で知らない人に話しかけるのは気まずいもの。ジョブ型の職場を持ちながら公共空間にも自分の居場所を持ち、そこを行ったり来たりする。言うなれば、非公式の公共圏が活発なのが欧米のサードプレイスの特徴なのです」

サードプレイスを代替していた日本型セカンドプレイス

一方、日本ではどうなのでしょうか? 高度経済成長期〜バブル期にかけて、日本のセカンドプレイスは、マトリクス上で“膨大な面積”を持っていました。つまりセカンドプレイス(仕事場)が、ファーストプレイスとサードプレイスを兼ねていたのです。

「大卒一括採用と定年退職までの年功序列の中で、職場が閉じたタテ社会をつくって家族の役割を果たし、飲み会や運動会などで交流の場も与える。社内ならば名刺交換もいりません。つまり企業が、非公式の公共圏(サードプレイス)を代替していたのです」

もうひとつ、日本独自で面白いマイプレイス型サードプレイスがある、と梅本さんは指摘します。“居酒屋・スナック”の存在です。擬似家族志向で自分らしさを取り戻す場所であり、そこでは甘えられる関係が成立しているといいます。

「スナックのドアを開けると、ママさんが何と言ってくれますか? お帰りなさいです。気分は完全にプライベートで、会社の社長も役割から解放され、愚痴を言ったり慰められたり、ここではぐだぐだの姿を見せられます。居酒屋も非常に日本的なサードプレイスです。社交性に乏しい日本人が、一杯入ればガードが下がり、お店のマスターを通じて、見ず知らずの隣の人と会話を始められます」

ところが、バブル崩壊後、こうした日本型ファースト&セカンドプレイスの形にも変化があらわれます。職場ではメンバーシップ型が衰退して欧米方式のジョブ型に移行、さらに両親と2人の子供がいるという標準世帯が減少し、単身世帯が増えたのです。

「そのため、日本的なインフォーマル&パブリックが一気に衰退してしまったのです。企業の中で非公式公共圏がシュリンクしたら、誰が・何がその代替をしてコミュニティを形成するのか? いま、それが日本の社会組織デザインの重要課題になっていると思います」

アメリカで起きている社内コミュニティ(実践共同体)の活発化

アメリカでは近年、日本の真似をして企業内にコミュニティを作ろうという動きが広がっているといいます。日本の製造業が強かった1980年代を研究して、社内にコミュニティ(実践共同体)があることが強みになると判断したのです。そのため、日本よりも企業内のコミュニティが活発になっているという逆転現象が起きているのです。

「今でもトヨタなど、社内に非公式ネットワークがあり、企業内コミュニティの力が強い企業は、グローバルでも成功しています。グローバル経営のスタンダードを幻影的に捉えるのではなく、日本の強みを活かしながらグローバルに適応した会社が、成長を維持しているのです」

そうした企業内コミュニティも、いまコロナ禍で大きな変容を迫られています。ファーストプレイスであるべき「家」に、セカンドプレイス=仕事場が押し寄せてきて、またスナック・居酒屋などの日本版マイプレイス型サードプレイスが機能しなくなってしまったのです。「なので今は、強制的なブレンド状態に入ってしまったといえます」と梅本さんは指摘するのです。

ワーク・ライフ・バランスからワーク・ライフ・ブレンドへ

最後に梅本さんは、誤解されがちなサードプレイスの本質を3つにまとめてくれました。

サードプレイスの本質は、まず「①フォーマルからの解放」にあります。ファーストとセカンドの社会的役割から解放され、素の自分に戻れる場所です。

そして「②サードプレイスは多様」であるということ。サードプレイスは、コミュニティ型だけでなく、マイプレイス型やハイブリッド型があります。いわば都市の魅力装置であり、組織の代替文化であり、社会の安全網でもあるのです。

さらに「③サードプレイスは【越境】」であるこということ。サードプレイスの本質は場所ではなく、気楽で一時的な越境体験なのです。ゆえに、都市や社会の“縁側(境界領域)”としてデザインされれば機能するという本質を持っているのです。

梅本さんは、こう締めくりくります。「いま、コロナ・パンデミックで社会全体が、強制的に、気楽でも一時的でもない『越境』を体験させられています。これは、ファースト、セカンド、サードの再定義と価値の刷新が始まっているとも言えます。ワーク・ライフ・バランスからワーク・ライフ・ブレンドへ。私たちはいま、その変化を意識する必要があると思います」

野村不動産のクオリティスモールオフィス「H¹O」は、「心地よさ」「心身の健康」「豊かな感性」「自分らしさ」という“Value 4 Human”をコンセプトに、昨年10月から事業を展開しています。現在まで4カ所、2020年10月に渋谷神南、11月に渋谷三丁目、12月に神田、2021年1月に虎ノ門、2月に平河町と、続々とオープンを予定しています。

到来しつつあるワーク・ライフ・ブレンドの時代に対応するため、「H¹O」は今回のオンラインサロンでの学びも活かしながら、その環境と機能をアップデートしていくつもりです。

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